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余りにもジッと見詰めてくる千春の視線がこそばゆく感じてきた私は、熱くなった頬を隠すように視線を下に移すと、
「千秋?」
千春の優しい声が降って来た。
「ん?」
瞳を戻すと、千春は私を抱き締めていた腕の片方を私の頬に当て、首を軽く傾けて、また柔らかく微笑んだ。
千春の意地悪に笑う顔が好き。
でも、こうやって柔らかく笑うと、自分が特別なんだって言ってもらっている気がして嬉しくなる。
愛おしそうに眼を細めてくれているような気がして、自然と笑みが零れてしまう。
「どうして俺がここに居るって分かった?」
千春は頬に当てた手の親指の腹で、私の涙の跡を撫でるように優しく拭き取ってくれる。
ここに居るのが分かった?
そう訊きたいのは私。
千春がこのホテルで会見が有るのは、神崎さんに聞いて知っていた。
けど、まさか私の前に現れるとは思っていなかった。
私が神崎さんにあの歌の曲名を教えたのは、神崎さんを助けるため…。
だけでは、なかったけれど…。
千春の本を読んで、千春の気持ちを知って、
千春が壊れてしまうんじゃないかって…。
千春が千春で居られなくなっているんじゃないかって…。
そう思うと、心が苦しくなっていた。
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