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少女と逢うことが普通になってきたある日、トモヤは少女の名前すら知らないことに気付いた。
少女のことを知りたい、そう思った。
初めての感覚にトモヤは戸惑ったが、名前を知りたいという気持ちには勝てなかった。
同時に、自分も名乗っていなかったことを思い出した。
「今更だけど俺は友哉。お前は? 」
トモヤから話しかけたことに驚いたのか一瞬驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうな笑顔になった。
しかし、トモヤが言っていることの意味が分からなかったのか笑顔のまま首をかしげた。
「なまえ…? 」
彼女は名前の意味が分からないのか聞き返してきた。
名前についてどう説明していいのか悩みながらも説明した。
「名前って言うのは……えーと、そうだなぁ……個人を特定するためのものかな。」
「私は桜の精霊よ」
「そうじゃなくて……それじゃあ他の桜の精霊たちと区別できないだろ? 」
「なぜ区別するの? 桜の精霊は桜の精霊でしょ? 」
精霊たちは個人を区別しないらしい。
そのため、名前が必要ないのだ。
「桜の精霊の中でもお前はお前だろ?」
「私は私…?」
「そう。名前無いなら俺がつけてやるよ。そうだなぁ…桜花(オウカ)ってのはどうだ? 桜の花って書くんだ」
「桜花……」
「あ、嫌か? 」
一人で勝手に盛り上がり、名前まで勝手につけてしまったトモヤは焦ったが、少女は笑顔で首を振った。
「ううん。素敵。ありがとう」
少女、桜花はもう一度自分の名前を噛み締めるように呟いた。
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