7人が本棚に入れています
本棚に追加
しばらく沈黙が続いた。
何度か顔を上げ口を開くが何も言えずに再び閉じることを繰り返した。
こんなに言い淀むなんて……。
トモヤがそう思っていると意を決したかのように桜花が話し始めた。
「実は……そろそろお別れなの」
「お別れ……? 」
トモヤには桜花の言いたいことがいまいち理解できなかった。
桜花の話に混乱していると再び桜花は話し始めた。
「私たち花の精霊は自分が宿っている花が咲いている間だけ人型になれるの。私の宿っているのは桜の木……もうすぐすべての花が散るわ」
桜花が一つの桜の木に触れ、そして見上げる。
トモヤもつられて桜の木を見上げる。
そこには、確かにだいぶ葉桜になってしまった木があった。
「この木の花がすべて散ってしまえば私は人型でいることはできないのよ……」
悲しげに桜花はもう一度トモヤに告げた。
いままで満開の桜も好きだったが、一番好きなのは花が散るときだと思っていたトモヤだったが、この時ばかりは桜が散らなければいいと本気で願っていた。
最初のコメントを投稿しよう!