0人が本棚に入れています
本棚に追加
3話目 吸収蝿
「うわぁっ…」
12月地区の森の中に入り込んでいく僕達。
森の中にはたくさんの
死体。死体。死体。
女男子供から老人。
形の残っているものから
原形のかけらがないものまで
歩く道に石ころの様にあたりまえに転がっている。
さすが地区1番の治安の悪さと言うべきか……。
死体の死臭に群がる小蝿の羽の音が耳の側を何度も通過する。
息を忘れた小さな赤ん坊を抱きしめる母親の死体が転がっていた。
もちろん母親も息を忘れている。
二人にたかる小蝿に思わず顔をしかめる。
現世での死亡理由が身分に物を言うこの世界。
たとえ現世での記憶がなくても死亡理由が自殺なら12月地区。
問答無用で地獄に突き落とされたり、天国にのぼれる。
どうして、こうも世界は理不尽を勢いにして回転を続ける。
どうして、世界は影をなくせない。
足元にある二つの屍の実態に思わず唇を強く噛んでしまう。
まだこの世界にきて数時間しかたっていないのに、どうしてこうもこの世界に対する憎しみを強く感じやりきれない気持ちになるなだろうか。
自分の心に小さなもやができる。
ズズズズズズズズズっ!!!!!
「新っ!!!」
千秋の叫び声で現実の世界に引き戻される。親子に群がるうざい小蝿達が、
大きな人型のなにかに変わった。
「な、なんだよこれ」
おもわず後ずさる。
「吸収蝿だよ…っ」
「吸収…蝿…??」
吸収蝿。
この世界での死者の魂は最後の行き場所を失い、永遠的にこの世界を漂い続ける。
漂い続ける魂を好物にし、魂を喰らい成長するにつれ凶暴さを増し最後にはこの世界で生きている人間までも襲う。
親子の魂が凶暴さを増す引き金となったのだ。
「千秋っ。逃げるぞっ!!」
吸収蝿に背を向け森の奥へ、奥へ走る。
息がすぐに上がったのがわかった。
無我夢中で足を動かす。
よく足が動く。
自分でもびっくりしてる。
それでも吸収蝿は追い掛けて来る。
ドサッ
「千秋っ!?」
千秋がこけた。
真後ろには吸収蝿が片手であろう部分で千秋の足を掴み別の腕を振り上げ千秋の頭蓋骨に狙いを定めているのが見えた。
「新逃げろっ!!!」
「ッ!?」
どうして、世界はいつもこうなのだろう。
「早くっ!!!!」
「やめろ…」
世界はいつもずるい。
「新っ!!!!!」
世界はどうして
「やめろおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」
世界はどうしてこうも憎いのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!