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お父ちゃんは二つ返事でアタシの荷物を軽々と両肩に乗せ、ついてくる。
相変わらず人間じゃないわお父ちゃん。
アタシ、凄く重たい思いしてきた荷物を軽々と。
まあ…お父ちゃんにはいろいろ武勇伝がある。
若い時、20人相手に殴り合いで勝った。
田んぼにハマった牛一頭(しかも大人)を肩に担いで助けた。
台風の日に濁流の中、小屋ごと流されてた近所のゴンタを助けた。
レスキューでさえ躊躇したのに…。
チャリで買い物中、バイクに鞄を引ったくられ、逃げるバイクをチャリで追い掛け、捕まえてボコッた。
数えあげたらキリがない。
恐ろしい男。
アタシには笑った顔さえ見せなかったわ…
でも、…見せた事になるのよね。アタシに…
複雑だわ。
アタシはちゃっかりお風呂に入っている。
懐かしいわ檜風呂。
東京のマンションのバスルームも広くて好きだけど…やっぱり木のお風呂にかぎるわあ~
ほう…とため息つくと、お湯から立ち上る湯気が揺れてる。
あああ…、家に入れたけれど…どうしよう。
アタシはブクブクと湯舟の中に全てを沈めた。
男の子だった過去も、家出した過去も沈められたらいいのに。
「はあ~いいお湯だったあ」
アタシは長い髪を後ろで束ねて、鏡の前に立つ。
冷たい空気にあたりたくなって、すぐ近くの小窓を開けたの。
目の前にはお父ちゃん。
あら…、
と思った瞬間、お父ちゃんは真っ赤な顔して慌てて走り去った。
お風呂のすぐ横はお父ちゃんの作業場だった事を思い出した。
お父ちゃんは大工。
そして、お父ちゃんが真っ赤な顔した理由分かったわ…
アタシ、素っ裸だった…。
いやん!
って慌てても遅いか。
お風呂から出るとお母ちゃんがどくだみ茶を出してくれた。
ああ…懐かしいわ、どくだみ茶。
小さい頃、こればかり飲まされてたものね。
「あ、いつものクセで出したけどお嬢さんは麦茶とかが良かった?」
お母ちゃんはお茶が入ったグラスを引こうとしたけど、止めたわ。
懐かしいもの、飲んじゃう。
不思議ね、子供の頃は嫌だったのに…。
ふふ、そうよ。
幼なじみの子の家で麦茶の味を覚えてからは嫌いになったのよ。
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