第一話 春のイタズラ

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   やわらかな春の風が可憐な地の花を揺らし、綺麗に咲き誇る木々の花弁を舞い上がらせる。  ついこの間まで残っていた冬の名残はいつの間にやら消え去り、漸く春にふさわしい気候に恵まれた。  まるでこの日を祝福しているかのように一気に咲いた桜の花は、ここ、桜琳高校の名にふさわしい。  そう、今日は全国共通、私立・公立高校の入学式。入試により選抜された、新たな高校生を迎えるハレの日。  期待に胸躍らせる新入生の初々しい声が、生徒のいない校舎に響いていた。 (うるさい……。たかが入学式に何でこんなに騒げるんだ)  ほぼ無人と化した校舎の二階を歩く赤髪の少年は、外から聞こえる声にうんざりした様子で溜め息をついた。  無事進級を果たし、一足先に始業式を済ませた一般生徒はこの日、一部の生徒を除いて休暇になっていた。  一部の生徒とはつまり、今日の入学式の裏方として働く、云わば雑用係だ。  その生徒の中の一人になってしまった少年――青葉竜斗も、勿論例外ではなかった。 (あー……面倒くさ……。何で俺がこんなこと――)  教師に頼まれた補充分のパイプ椅子を脇に抱え、片方の手はズボンのポケットに突っ込んだまま、渋々騒がしい体育館に向かう。  例え面倒なことでも、頼まれた事はきちんと全うしてしまう所は彼の性分だ。  
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