第一話 春のイタズラ

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         *        「おはよう」「おはよう」と至る所で挨拶を交わす声が聞こえる。  昨日、無事入学式を終えた桜琳高校は、いつもの賑やかさを取り戻していた。  いつもの時間に登校した竜斗は、乗ってきた自転車を駐輪場の指定置に止めた。  教科書が数冊入っている鞄を肩に引っ掛け、雑談しながら各々クラスへ向かう生徒達に混ざって教室へと向かう。  第一ボタンを外したシャツに、弛めたネクタイ。暖かくなったとはいえ、朝夕はまだ冷える為、ブレザーの下にはやや大きめの茶色いカーディガン。  昨日は入学式だったので、新入生に示しがつかないときちんとした恰好をしていたが、これが普段の竜斗の制服の着方だった。  吹き抜ける風が竜斗の紅い髪を揺らす。長めに整えられた前髪を風が巻き上げ、端正な容姿を露にさせた。  日本人には珍しい赤髪。  入学当初は、教師から散々「髪を染めるな」と注意を受けていた。その度に「これは地毛だ」と説明しても――確かにこの色では説得力がない――、ただの言い訳と捉えられ、同じ注意を繰り返された。  今となっては成績優秀が功を称したのか、教師からは一目置かれるようになり、いつの間にか髪のことは言われなくなっていた。  結局、教師にとって成績が全てなのだ。成績さえ良ければ素行など関係無い。 ――まったく、くだらない。 「ぼーっとして……どうした?」 「――!」  横からの突然の声に、下駄箱を開けようとしたまま静止する。そのまま顔だけ声のした方へ向けると、 「……加那」 「おはよう、竜斗」  隣には数少ない友人の中で最も親しい友人――恫頼加那汰(とうらいかなた)が立っていた。  
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