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下駄箱に靴を入れ、室内用のそれに履き替えると揃って教室へと向かう。
「昨日はお疲れ。何事も無くて良かったな」
「……もうやらないからな」
「そう言うなよ。竜斗しか頼める人がいなかったんだ」
また、なんて言葉が出てくる前に先手を打てば、加那汰はやられたとばかりに苦笑する。
お見通しなんだよ、考えてることなんて。
「嘘吐け。俺の他にいくらでも頼める奴はいるだろう」
――お前になら。
「いないよ。俺は信頼した人にしか頼み事なんてしないから」
加那汰は一度瞼を閉じ、答える。その言葉に込められた意味は何なのだろうか。
「……そういう事を軽々しく口にするな。安っぽく聞こえる」
「ははっ、それは失礼」
テンポの良い会話。普段なら一方通行で終わってしまう会話も、心を許した友人相手ではそれも変わってくる。
例え言葉に詰まっても、彼との間の無言は居心地が良かった。
何処か楽しそうに笑う加那汰に釣られて、竜斗はほんの少しだけ表情を緩めた。
「今日の一限って何だっけ」
「現国。授業の始めに漢字の小テストがある」
「あ、やば。覚えてくるの忘れた」
「覚えてなくても出来るくせに……」
「それ、竜斗にだけは言われたくないな」
竜斗と加那汰が所属する3-Aの教室は三階の突き当たりにある。一人だと長く感じるそこまでの道のりも、他愛のない話をしながらだと早く感じた。
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