序章【日常に微睡む】

10/12
前へ
/26ページ
次へ
「やっぱりお前ってストーカーだったんだな」 「ちちち違いますよ! やっぱりとか言わないでくださいっ!」 「じゃあ何で知ってるんだ?」 「それは…………そ、そうでした! この前、計くんが家から出てくるのを偶然見かけたんです! そうに決まってます!」 「ふーん……」  依然として疑いの視線を向ける計から逃げるように、杏子は妙に引きつった笑みを浮かべる。  口笛を吹いた。下手だった。  と、口笛――そう呼んでいいのかは極めて不明瞭だが――に混じって、別の音が響く。  それは、静かなる靴音。  その靴音は二人の背後から、ゆっくりと、それでいて着実に近づいてきている。  少しずつ大きくなる音が、そのことを如実に物語っていた。  この時間、計と杏子の他にも、高校の敷地内に残っている生徒が居たのだろうか。  もしくは教師という可能性もあったが、しかし、それは無意識に、不可抗力に―― 「……まずいな」  嫌な予感が、してしまった。  そして。  今日だけで二度目となる嫌な予感は、やはりというか、的中する。  首だけで振り返った計は、ほぼ反射的に息を飲んでいた。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加