序章【日常に微睡む】

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 五月八日、午後、快晴。  場所は校舎の屋上。牢屋のような教室から逃亡してきたその少年――灰ヶ峰 計(ハイガミネケイ)は、今はコンクリートへ仰向けになっている。  決して固い地面の寝心地は良くなかったが、しかし、退屈な授業を受けるよりは、こちらの方が状況としては幾分か勝っていた。  春の優しい日差しは、平等に、無条件に、快い微睡みを与えてくれる。  ともすれば、うとうとと夢見心地になる計だったが、ふと聞こえた物音に瞼を開いてしまう。微かに聞こえるのは、靴音だ。  嫌な、予感。  不思議なもので、予感は予感でも、計の“させる”嫌な予感は多くの場合で的中する。  それは、この時も例外ではなかった。 「計くん見ーっけ、なのですよ」  鼓膜を揺らすのは聞き覚えのあるソプラノ。  体を起こすよりも早く、靴音の主は計のすぐ横まで辿り着いていた。らしい。  そのことを証明するように、ずいっと、文字通りの目と鼻の先に少女の顔が出現した。
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