序章【日常に微睡む】

6/12

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
「で、では、もう一度聞きますが」 「ん」 「計くんは、私のことが好きですね?」  訪れたのは沈黙だった。 「質問が変わってんじゃねぇか。というか、何だその質問」 「は。間違えました」 「……次ふざけたら帰るからな。どこに帰るんですかとか突っ込むなよ」 「それは逆に突っ込めという振りなのでしょうか?」 「………………」  さすがにやり過ぎたと思ったのか、杏子は咳ばらいを間に挟んだ。  一応、自分のペースは取り戻せたらしい。 「計くんは、学校が嫌いなのですか?」  そして、ようやく、本来の質問へと戻った。  それに対する計の回答は、もちろん決まっている。決まりきっていた。  ――好き、ではないな。 「好きだ、それなりには」  彼自身も、どうして嘘をついてしまったのか良くは分かっていなかった。  無論、学校なんて嫌いである。でなければ、こうしてサボり魔をやっているはずもない。  大多数の生徒以上には学校のことが嫌いだった。  ただ、 「そ、そうですか!」  無邪気に喜んでいる杏子を見ると、決して悪い気はしない――が、肝心の喜んでいる理由が謎である。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加