序章【日常に微睡む】

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 杏子はきらきらと輝く瞳を計に向ける。 「それはどうしてですかっ?」 「ん? えーと、そうだな……」  少しの間、計は逡巡して、 「アンコがいるから?」  答えた。  ずっこけそうになるのは杏子である。 「なぜに疑問形なのですか!?」 「それが俺にもさっぱりだ。そもそも俺は何を言ってるんだろうな」 「私が知るわけないじゃないですかっ! うぅ、計くんはずるいです! ずる計です!」  計が頭の上に疑問形を浮かべた――その、次の瞬間だった。  ぴかーんと、大きめの電球が光る。 「お前らぁ……授業をサボって屋上で逢い引きとは……いい度胸してんじゃねぇか」  大きめの電球と思ったそれは、人の頭であった。  スキンヘッド的なハゲ頭をした生活指導教員――金剛寺 勇美(コンゴウジイサミ)が、階段へ繋がる扉の前で木刀片手に仁王立ちしていたのである。  二人の反応はそれぞれである。 「あ、あああああ逢い引きー!?」 「で……金剛寺先生、頼む、見逃してくれ」  金剛寺は声を立てずに薄笑いした。
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