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それは、ある澄んだ風が吹き抜ける夜のことだった。
巨大な蒼い三日月が集落を睥睨している。
『出たぞーっ』
男の声と同時に女の裂帛も空に木霊した。
それを引き金に、貧民達は散り散りに逃げ惑う。
あらゆる人間たちの悲鳴が聞こえた。
「こっちだーっ!早く逃げろぉーっ」
「早く隠れるんだ」
「みんな安全な場所へ避難しろーっ」
すると、月を背にし、漆黒の影が浮き彫りに見えた。
その形は、巨大な鳥。
一度それはその場所から浮遊していた。
それを、村人たちは固唾を呑んで身構えている。
だが、その巨大な鳥は一気に集落に向かって急降下をしはじめた。
ごごご、と強大な妖気が叩き付けるように感じられた。
殺気に似たもののようだった―――。
本能的に村人たちは全身全霊回避を半ば強制的に強いられる。
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