タイムトラベル

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 困ったことに、私は殺人現場に出くわしてしまったらしい。  目の前には男の人が横たわっている。しかも、着物姿の、胸に刀の刺さして横たわり、明らかなる殺人の跡を残した形でいる。  ここはとある森だ。深い森で樹海と呼ばれる場所。自殺をしようという連中が頻繁に訪れる場。とても清々しい森であるのに、残念な話だ。  なぜ私がここにいるのか。  それは、そう。丑の刻参りの下見、待機にきた。丑の刻参りでは、人に見られてはならないというルールがある。これが破られたとき、呪いは自分に跳ね返ってしまうのだ。  なぜ私が丑の刻参りにきたのかということは、後にお話しよう。  目の前にあるこれは、思わぬトラブルだ。  私は着物姿の妙な遺体に触れてみようと手を伸ばしてみる。肝の据わりようには、自分ですら感心する。人様に呪いをかけようとしている私だが、一端(いっぱし)の良心は持ち合わせている。生きているなら助けるのが当たり前、死んでいるなら…今の状況では警察はごめんだから、手ぐらいは合わせよう。  私が横たわる身体の頸動脈に触れようとしたとき、相手の目蓋がピクリと動いた。  驚き、慌てて手を引っ込めようとした時、その身体は私の腕をがっちりと掴んだ。  掴まれた腕に、ひんやりとした冷たさが伝わる。この人、体温がない。
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