2011年7月4日

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僕は君のいる部屋を出て、仕事に向かう。 しかし頭の中は君のことだけしか考えていなかった。 あれからもう1年か… あの悲惨な事故から年月は流れ、またあの時と同じ夏という季節が訪れた。 あの日以来君は目を覚まさない。 あの日以来君は声を聞かせてくれない。 あの日以来君は手を握ってくれない。 ずっと寝たままだ。 そんなとき、僕は不意に名前を呼ばれ振り返った。 僕の名を呼んだ人物は君の部屋を担当している看護士の方だった。 「すみません。これを渡すように言われたのですが… 彼女に渡す訳にもいかないのであなたに。」 そう言って僕の手に水色と桃色の二枚の紙を手渡した。 『これは?』 「あの…あと少しで七夕なんで毎年、うちの病院では患者さんに短冊を書いてもらってるんです。」 そう言って看護士さんは廊下の端に目を向けた。 視線の先には笹が飾ってある。 『僕も書いて良いんですか?』 看護士さんは僕の問いに笑顔で頷くと仕事に戻っていった。 僕も急がなければ。 鞄にさきほど渡された短冊を大事にしまうと、僕は少し急ぎ気味に会社に向かった。
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