運命と言わずなんと言う

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「本、読みました?」 「え?」 こんなところで会うとは思わなかった。 「えっと、本屋の……」 彼女は頷く。 「よかった。間違ってたらただの変人ですよね」 そう言うとにわかに彼女の顔がほころんだ。 「いや、そんなことないです!」 否定する言葉に思わず力が入る。つくづく格好つけられない奴だ自分。 「あれから本屋来ました?」 「あ、いや、行ってないです、はい、すんません」 「何で謝るんですか?」 彼女と会うのがなんとなく恥ずかしいだとか勝手に思って行くのを躊躇っていた、などとは生きているうちは言えない。絶対に。 いやーあはは、とうやむやにしてみる。何て奴だ俺。 「……おにぎり、どっちにします?」 昆布と鮭のを見比べながら尋ねる可愛らしい様子に、俺は即答した。 「一緒に食べませんか」 食い違いも甚だしい解答ではあったが。
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