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「っ、トモ!」
待てってば、と呟いた途端にトモの背中が人混みによって掻き消された。焦った俺は、人の波を掻き分けて進んでいく。だがそこにトモの愉快な茶色頭は見えず、ただリムジンに近付いただけだった。それによって見えてくる、影。銀髪の少年と、トモよりも愉快な赤紫の髪をした少女が、リムジンの中の人と話しているようだった。何だか、この場に酷くそぐわない容姿をした彼等に呆然として、足を止めた。
「彼は―――、」
そして聞こえた少女の声。ソプラノの、綺麗な声だった。
誇らしそうな顔で、場を見下すような視線が、やけに脳裏に焼き付いた。そして、その淡いピンク色の唇が言葉を紡ぐ。
「ニコラオス国第32代、サンタクロースなのですから。」
耳を疑った。彼女は何を言っているんだろう。ああ、そんなことよりもトモを捜さなくちゃ。だけど、今、
「(・・・サンタクロース?)」
確かに聞き取ったその言葉を、心中で繰り返し呟いていると、少年と少女はリムジンに乗り込んで、スクランブル交差点を颯爽と過ぎ去って行ってしまった。まるで、嵐のように。
今だ呆然とし続ける俺にかけられたのは、捜し人の、声。
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