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冷たい返事にキトンは目をこすって泣き真似をする。
「ふーんだ。塩水かけてやる!」
「ば、バカ野郎!その手で触んな!!」
ポロポロとこぼれ落ちている涙をヒースに擦り付けようとするキトン。
それを牢屋の奥に行くことで回避する渋面のヒース。
二人の間を隔てる鉄格子が揺れた。
「お前は塩水がダメなのか?」
その様子を眺めながらシオンが問うと、諦めたキトンが代わりに頷いた。
「ヒースは樹妖だから塩水とか炎がだめなんだよね~」
「なるほど、それで……」
キトンの隣の牢、ヒースの入っているそこは、神術が一切効かない特別製である。
樹妖とは所謂木の精霊のことで、本体の木から抜け出した思念体である。
核を拠り所にしたそれは姿を変えることができ、他の種族より嬰素――万物を形作る元、それを操り不思議な現象を起こす事の総称を神術という――を扱うのがうまい。
とはいえ本体は樹。
根腐れする塩水や燃やされる炎は苦手としていた。
「なんかあったら塩水をかけなよ。言うこと聞くからさ!」
「……そうするか」
「ほう、てことはオレの情報いらないんだな?キトン」
冷たい声でヒースが言い、キトンが慌ててヒースを省みる。
「それは反則でしょ!」
「聞こえねーな」
「わー!ごめんてヒース!」
そんな、バカみたいでアホみたいで漫才のような会話をしながら、シオンはさりげなく誘導尋問しようとしたのだがそれはすべて失敗に終わった。
ヒースは『情報屋』らしく掴み所のない笑顔を浮かべたまま、キトンは飄々とした態度を崩さないままに。
まるで示し合わせたかのように互いの不利益になるようなことは言わなかった。
彼らはプロだった。
間違いなく『裏』社会に生きる者たちであった。
ただうざい傍迷惑な食い逃げ野郎は、本当は大罪人だったらしい。
調べるまでもなく、『分かる』。
徐々に顔色の変わっていったシオンに、青年は謎めいた微笑みを浮かべるのであった。
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