13人が本棚に入れています
本棚に追加
結論からいえば、それは間違った認識だった。
当然だという突っ込みは、この際なしにしてほしい。
というか、無しにしろ。
シオンだって、ただ仕事ができただけなら、特に文句は言わなかった。
元々給料泥棒しているのが申し訳ない気も少しはあった。
都会から『とばされて』来ている同僚の目も気になっていたところだ。
ただ問題だったのは、その『囚人』がちょっとかなりとてもうざかったということなだけで。
「ねーねーシオンー!おなかすいたー。ご飯は?ご飯は?」
まるで罪を犯しそうにない呑気な顔。
争いが絶えないこの大陸では、珍しいくらい純粋そうに見えた。
「ガキかお前は!」
持ってきていた盆を中に差し入れてやると、待っていましたとばかりに牢の中の青年は布巾を剥ぎ取る。
「わーいブルスケッタだー!」
そのままパンにかじりついた青年に、シオンはため息をつきつつ、何度目かになる質問を投げかけた。
「で、おまえ名前は?」
名前不明年齢不詳職業不詳身元の分かるものなし。
罪状は無銭飲食である。
あきれるくらいマイペースな青年は、その朗らかな性格とは裏腹に頑として身元をあかそうとはしなかった。
「だから、プー助。いや、プー太郎だってば」
「だからそんな投げやりな名前を子供につける親がどこにいんだよ!」
「この世界に一人いるみたいだよ」
全くもって、らちがあかない。
こんな不毛な会話を、もう一週間くらい繰り返していた。
いつもの応酬が終わる頃、青年は朝食を食べ終える。
本日も収穫はない。
あの手この手で青年を揺さぶろうにも、青年はあまりにも手ごわかった。
.
最初のコメントを投稿しよう!