人生山あり谷あり殺意あり

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「お前、疲れてるのか?」  とある夜勤明けの日。 一人座り込んでコップを手にしているシオンに、早めの出勤をしてきた先輩が声をかけた。 「……そんなにわかります?」  シオンは額を押さえて大きなためいきをついた。 「おう。つーか、なんか疲れてるってより、やつれてる?」 「…………そんなにわかっちゃいます?」 「おう」 「…………」 黙り込んだシオンは、不意にがっくりと落ち込んだ後、突然拳を机に叩き込んだ。 「先輩ぃぃぃ!俺、俺もう無理です!もう無理限界です!!」 「おおぅ!? どうしたシオン!悩み事なら聞くぞ!? だから早まるな!」  取り出したナイフを持って叫ぶシオンと、それを止めようとする先輩。 現場は一時騒然となった。 「で、どうした。時におまえ大丈夫か?」  ゼーハーと息をついているシオンに先輩は半ばあきれ顔で問いかける。 シオンはぐったりとうなだれたまま重い重い息を吐いた。 「生きてます大丈夫です。……ご迷惑をおかけしました」 「で、なんだ言ってみろ。どうした?女か?金か?」  辺境の地である。 娯楽もなにもないここで、思わずそういったものに走る者も少なくない。  そう、都からきた先輩は考えていた。 がしかしシオンは力なく首を振る。 「違います。分類的には男です」  一瞬、奇妙な間があった。 続いて先輩が飛び上がり、シオンと微妙な距離を取る。 「男!? 男っておまえ……男色家だったのか?それはさすがに俺もどうしようもないぞ?」 「えぇ!? ちがっ……」 思わぬ誤解にシオンが声をあげるも、早とちりした先輩は止まらない。 「お前……そんなに仕事大変だったか?若いんだからそんな早まるなよ。今度俺がいい女紹介してやるから、な?とにかく思い直せって」 「ちょ、違いますよ先輩!誤解です!なんでそうなるんですか!仕事のことです」  ピタリと、先輩の動きが止まった。 .
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