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「なんだよ、仕事かぁ……。驚かせやがってこのやろう。てか……ん?お前、んな大変な部署だったか?」
一変して笑顔になり、いかにも『安心した』というようにため息をついた先輩に、逆にシオンが大きなため息をつく。
「早とちりしたのは先輩ですよ……。はぁ。仕事はいいんです。仕事は。でも最近来たあいつが、あいつが……」
そのまま声もなくうなだれたシオンの肩を、先輩が慰めるようにポンと叩いた。
「よくわからないけど、大変なんだな。よくわからないけど」
「なんで二回言った?」
そんなシオンのツッコミをかわし、先輩は手にしていたコップの中身を煽った。
「……そーいやおまえ、牢屋番だったか?おまえ夜勤明けだろ?今日は休めよ。俺が代わってやるからよ」
ふと思い出したように先輩が問う。
牢屋番は『砦一楽な仕事』と有名である。
先輩の目は一瞬で輝いていた。
地下牢なら涼しいし、サボって寝ていてもバレない。
囚人は基本的にいないし、これ以上ない好条件である。
そんな先輩の思惑を感じ取ったシオンは、しかしそれでもなにもいわずに感謝の旨を伝えてその場を辞した。
マイペースでお気楽ご気楽、人の神経逆撫でする『あいつ』のことは、聞くより見て接して知るべきである。
――果たして
次の日にげっそりとやつれた先輩が、半ばたたきつけるようにシオンに鍵を返してきたということは、推して知るべしである。
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