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2020.5.5『後の百年と一日』
昼間の交戦によって起きた、戦火の残り火が静かに燻り消えていく。
辺りは驚くほど静か。
雲もなく風はなぞるくらい僅か、呆れるほど空の高く遠くが見える月夜の中。
「もし生き残ったなら……」
その空を眺め隊長はいう。
「お前の願いは……何だ?」
豪に身を隠しながら、悪魔たちの侵攻がないか耳を澄ませながら、そう問う。
「願い、ですか……?」
いつその攻撃が来るとも分からない中、既に恐怖は麻痺している。
だからだろうか?素直に口にできた。
「百歳まで生きること、ですかね?」
嘘ではない。
けれど、口から洩れたのはその言葉だった。
「言うに事欠いて百歳か……大きくでたな」
笑いながら、煙草に火をつける。
「百歳まで生きて、孫やひ孫たちに囲まれ、笑いながら死ぬ」
そんなのは馬鹿な願いですかね?
「いや……」
そこで大きく煙を吸い込み、吐き出される紫煙。
「いい願いだ」
これ以上ないくらい。
何かを想うように視線を下に向け、もう一度深く煙草を吸う。
「一刻後も生きてるか分からない俺たちが百歳か……」
何を想っているのか分からない曖昧な表情を浮かべながら。
「いいな、それ」
「え?」
思いもよらない言葉に思わず声を出す。
「叶えようぜ」
「隊長?」
「その願い、気に入ったよ」
隊長はそういうと煙草を投げ捨てて立ち上がる。
「後の百年の平和をお前に預ける」
そして、腰にある剣を抜く。
「だから、今日の――――ー」
この一日の平和は、俺が守る。
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