2020.5.5『後の百年と一日』

2/2
前へ
/144ページ
次へ
後の百年と、この一日。 平和の為の、平和を繋ぐ、平和への約束が交わされたその日。 「あ、あの……」 「(百年に)足りない分は、子に守らせろ」 そういうと立ち上がり叫ぶ。 「全部隊に伝達!!これより最後の交戦の編成を行う!!」 勝つにしても負けるにしても、兵糧も疲労も人数も限界。 これ以上の遅滞行動、防衛戦の継続は限りなく不可能。 だからこその大隊主力を以てしての最大火力。 指揮官を含む最後の大防衛戦。 「以上を防衛部隊とする!!」 (隊長……) けれど、そこに自分の名前は挙がらなかった。 当たり前だ。 指揮官が戦闘に参加する以上、誰かがそれを引き継がなければならない。 「あとは、お前に頼んだ」 残ったのは本部への伝令を任命された自分を含める小隊。 「……ずるいですよ」 命令の意図は理解できる。 それでも、自分の尊敬する人間が死にに行くことは決して許容できない。 「そうかもな」 そういいながら隊長は笑うと、自分の肩をぽんと叩く。 「でも、死に方を選べるのも隊長の特権なんだ」 悪く思うな、そんな風に肩に置く手に力を込めて握りしめる。 手に伝わる隊長の温度。 おそらく、最後の。 「作戦名は、”百世(ひゃくせい)”」 それだけ残しながら。 握手も誓いも書面もなく、ただ言葉のみで。 「部隊再編後、状況を開始する!!」 ただ一人の個人的な、けれど遠大な願いの為、その作戦は遂行された。  
/144ページ

最初のコメントを投稿しよう!

158人が本棚に入れています
本棚に追加