2020.5.7『生存証明』

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2020.5.7『生存証明』

「もう……終わりか……」 遅滞行動ももうここが限界か。 部下の数は20人ほど。 一週間近いほぼ不眠不休での作戦行動。 300人いた部下は最初の衝突で100人もってかれた。 「それでも……」 目の前の地獄にも似た戦況絵図を眺める。 損害に比べ、戦果は上がっている。 最低三日と言われた高台の守り。 それを約束どおり一週間守りきったのだ。 「英雄だろ……最早」 そういって少しだけ気分が楽になった。 三日守ってこの場を放棄し、撤退の道もあったかもしれない。 この作戦で死なずに済んだ部下もいたかもしれない。 「たった300の命で帝都を守れたなら、お釣りがくるくらいだ」 けれど、戦場はなくならない。 戦い続ければいずれ終わりが来る。 それが敗北であれ、勝利であれ。 まだ地獄は続くのだ。 「申し訳ねえなあ、俺みたいな悪い上官の部下になったばかりに」 無造作に煙草に火をつけながら俺はいう。 「何を今更」 死の覚悟などとうに越えた顔。 疲れ果て、ボロボロに擦り切れた心のまま命令を実行する。 「本当に……」 その中で、副官がいう。 「上官を選べないのは親を選べないのと同じですよ、隊長殿」 今まで何度も聞き飽きた皮肉な言葉。 けれど、戦意も誇りも不満さえ微塵も欠けていない。 そんな表情を部隊の人間すべてが各々浮かべる。 「それでも、」 続ける。 「――――少しはマシな、地獄でしたよ」 そこにわざとらしく僅かな笑みを見せ、返す。  
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