2020.5.7『生存証明』

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「少しはマシか」 俺もその言葉に表情を崩す。 「ええ、ほんの少し」 「そうか……」 肺に吸い込んだ紫煙を吐き出しながら、俺は前を向く。 「ならば、申し訳ないがあと18名ほど、この地獄に付き合ってもらうとするか」 俺は表情を戻すと、紫煙を吐く。 「18?」 二名ほど足りませんが。そういって、今一度隊士の数を数える。 「残り二名、本部に伝達だ」 それも直接。 俺はそういうと、自らの腕章を引き千切る。 「これを、本部にいる松江に渡してほしい」 誇りよりも大事な生きた証。 俺はそれを隊の後方にいる一番若い騎士に放り投げ伝える。 「お前も同い年だったよな?」 そういって隣にいる騎士を見る。 「あ、はい」 「一つ、言伝を頼みたい」 「言伝?」 「ああ、言伝だ」 困惑した表情を隠さないまま、訊き返す若い騎士に俺はいう。 「俺はここにいる」 ――――今も戦い続けている、と。 半分まで吸い終えた煙草を足元に投げ捨て、それだけ。 「以上、復唱の用なし。直ちに命令を実行せよ」 羞恥に近い感情をもみ消すように、火のついた煙草を踏み消しながら、若手二人に対し最後の命令を告げる。 「行け!!」 偽善に近い、二つの若い命を逃がす行動が他の部下たちにどう映ったのかは分からない。 けれど、そうしなければ救われないと思った。 俺の命も、残った隊士たちの心も。 ”俺たちがここにいた”という存在の証明さえ。 だから、そう命令せずにはいられなかったのだ。  
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