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2020.5.8「それが、どうした?」
(参ったな……)
肩も、肘も、手首さえ動かすたびに骨々が軋むような鈍い音を立てる。
魔帝貴族と呼ばれるレイヴンを退け、しばしの小康状態の中。
(指先の感覚も違和感だらけだ)
隊長たる自分が戦場に立たなければ士気は下がる。
(けれど、こんな状態で果たして戦場に戻れるのか……)
確かめるように、何度も掌を握りしめては開き、ダメージの蓄積を確認する。
その時だった。
「巌槻隊長!!」
息を切らしながら駆け込んでくる伝令。
「……どうした?」
傷の手当てをしながら、答える。
「て、敵襲です……!!」
敬礼するその手を震わせながら、何かを押し殺すように叫ぶ。
「……敵襲?」
「前方より……”青碧のカイン”と思われる部隊が接近中とのこと……!!」
今しがた戦いを終えた人間に対し、伝える言伝としてはあまりにも辛く酷い、悪夢と呼べる報せ。
「そうか……」
分かった、と応急処置が終わったばかりの身体を軍服で包む。
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