2020.5.9『明日への、退路』

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2020.5.9『明日への、退路』

「――――撤退だ」 闇夜に紛れ敵の正確な数は判断できない。 ただただ迫りくる膨大な音だけが、その規模を知らせる。 おそらく1000前後。 それを、たった十数名の部隊で乗り切るのは不可能と判断したのだろう。 今まで頑なに撤退を指示してこなかった久世隊長が出した答え。 その判断は決して間違っていないといえる。 (けれど……) 「じゃあ、誰が退路を?」 そう、逃げるにはその時間を稼がねばならない。 最低でも半刻。 できれば一刻は欲しい。 「いるだろう、適任が」 「え?」 一体、誰が……そう後ろを振り返ったとき、既に疑問の答えはそこにあった。 「安心して行け」 ただ、一人。 「この退路は俺が守る」 千の敵に対し、たった一人で。 「レイジさん!!」 「止めるな、白神」 叫ぶ僕に対し、冷静な声で制止する久世隊長。 「一騎当千とはよくいったもんだ」 その強さを信頼してか、そう口にする。 (僕だって、レイジさんの強さは嫌というほど知っている……) それでも数が違い過ぎる。 「無理です!!こんな作戦!!」 たった一人で千の敵を相手にするなど。 ましてもっと多いかもしれないのに。 (こんなの……) こんなもの作戦と呼べるものではない。 「どんなに強くたって……」 防げるわけがない。 防ぎきれるわけがない。 声を絞り出すようにして、僕はいう。  
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