158人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ
2020.5.16『矛盾』
久城隊長は自分に厳しく、他人にも厳しい人だ。
私たち隊士に対して他の隊の倍の訓練を課し、自分は更にその三倍をこなす。
勿論、ついていける隊士たちは少なく、副補佐官として選ばれた私でさえ根を挙げてしまうことも珍しくない。
ある日、その訓練に耐えきれず、倒れ込んだ私に隊長はいった。
「ナツキ、苦しいか?」
地に膝をつけながら、けれど手を差し伸べることもなく、汗をかきながらそう笑顔で。
「…………ええ、とても……苦しいです」
これ以上、動くことなどできないくらい。
「大丈夫だ、ナツキ」
俺も苦しい。
そういって仰向けに倒れる私の隣に寝転ぶ。
「でも、死ぬほどじゃないだろう?」
真っ直ぐ天を仰ぎそういうのだ。
「死んだら、こんな清々しい空も見られないもんな」
本当、子供みたいに無邪気な目をしながら。
「隊長……」
「なんだ?」
「一つ……お聞きして……よろしいですか?」
私は何とか息を整えながら、同じ空を見上げ、尋ねる。
「ああ、いいぞ!」
決して濁りや穢れなどない強い眼。
「何故……久城隊長は私を、副補佐官に?」
最初のコメントを投稿しよう!