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屋敷に着く頃には、空は赤みを帯びていた。
空を飛び交うカラスたちは、独特な鳴き声でコミュニケーションを取り合っている。
体育館裏にあるお姫様のお屋敷は、想像以上にさびれていた。夕陽に照らされる体育倉庫は、どこか哀愁漂っている。
シンデレラを飾り立てる魔法使いはまだ来ていないのだろうか、逆立ちをしてみても、それはただの体育倉庫にしか見えない。
校庭から聞こえる少年少女の声が、風に乗ってかすかに聞こえる。
今まさに、青春の一ページを絶賛執筆中のようだ。
倉庫の重い扉を開くと、倉庫内の住人が一斉にこちらを向く。倉庫の住人は五名。さほど広くない室内が、彼らの存在を、いっそうひきたてていた。
静まり返る室内からは、警戒と疑念の固まりが、一斉に体当たりをしてくる。
「あ、あの……花宮楓さんは、いらっしゃいませんでしょうか?」
思わず、敬語を使ってしまう。爽やか少年の純も、さすがに雰囲気にのまれているようだった。
猫に追い込まれた鼠よろしく、その場に立ち尽くしていると、一番奥の机から小さな影が生えた。その小さな影は、ゆっくりと、しかし確実に、こちらに近付いてきた。思わず、俺も純も身構える。
近くまできて、俺の目はやっと、その姿を捉えることができた。
「なんの……用?」
小さく、空気に溶けてしまいそうな声で彼女は呟く。
小柄で、黒い長い髪。俯き気味のその顔は、暗い雰囲気とは裏腹に、非常に整った顔立ちをしていた。
か、かわいい……
思わず、小動物の様に華奢な少女に、和んでしまいそうになる。
「花宮……楓さんだよな?」
「……うん」
「その、ちょっと聞きたいことがあって」
「……なに?」
「その、話せば色々長くなるんだけど……」
しばらく黙ってしまった花宮楓は、「こっち」と、静かに呟くと、客間として使っているのだろうか、もう一つの部屋に俺らを招き入れた。
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