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一通りの説明をしている間、楓は相槌を打つでも無く、返事をするでも無く。ただ俯いたまま、座り込んでいた。
「……それで、終わり?」
最後には、こう言う始末だ。
純の方が、まだ話がいがあったのではなかろうか。
「それで、花宮京子の事なんだけどさ、楓さんとは何か関係をもたりしてないかな?」
「知らない。用が終ったなら、帰って」
長い話でご機嫌でも損ねてしまったのか、花宮楓はそう言うと、席を立ってしまった。
先程までは、少し間を空けて返事をしていたはずだったが、花宮京子に対しての返答だけは、やけにさっぱりとしていた気もする。
結局俺らはシンデレラのお屋敷を、半ば強引に追い出されてしまった。外に出ると、とうの昔に太陽は帰宅したようで、外はすっかり暗くなっていた。
時刻は午後の六時。どうやら魔法使いによって、魔法の期限は違うらしいな。
「一時間も話して、結局成果無しかよ……」
「大丈夫大丈夫!まだまだ、勇気には何も起きてないんだし。もしかしたら、ただのイタズラメールかもしれないしさ!」
純の笑顔は、辺りを照らし出すかのように輝いていたが、今回だけはその笑顔に励まされることもなかった。 八方塞がりか……純も、花宮楓もダメだった。仏様は、俺に蜘蛛の糸を掴ませる気は無いようだ。
「……大丈夫?なんか、ごめんな」
自分でも気付かない程、絶望の色が顔に出ていたのだろうか。流石の純も心配そうな顔をしていた。
「だいじょーぶだよ、だいじょーぶ!純のせいじゃ無いって」
無理に笑顔をこしらえるも、不安は消えそうにも無い。
純と分かれるまで、できるだけいつも通りに会話をしたつもだったが、果たして、いつも通りに話せていただろうか。
下らない話をしている間も、喰蝕語は頭の隅に居座っていた。
純には悪いことをしたな。と、考えつつも、罪悪感と自分の内に潜む恐怖に怯えながら、俺は一人で帰路についた。
空に浮かぶ月は雲を纏い、ほのかな光を、地面に零している。
その光は頼りなくて、通い慣れた筈の帰り道が、今日だけは、どこか知らない道のように感じた。
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