落とされ-序-

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――「私のお城、私の居場所を護ってくれて今日もありがとう」  私の毎日の楽しみは、私のお城の鍵を閉める事。何の事もないじゃないかと言われてしまうかもしれないけど、ここは、クラスでは存在感の無い私を、飾り立ててくれる唯一の場所。  ホラー同好会を作った時に、魔法使いは、私に、三年間の魔法をかけてくれた。私にとっては、このさびれた体育倉庫も、立派なお城だった。  ホラー映画は昔から好きだった。初めて映画を見たのは、小学二年生の時。井戸から出てくる長髪の怖い女性を見て、友達が「この人、楓ににてる!」と笑いながらいった。 「面白いジョークだと思ったのかな?」  映画の怖さよりも、その事へのショックで泣いた記憶がある。  ……なんにせよ、それ以来私はホラー映画に熱中する様になり、小説、マンガ、心霊スポットなど、様々な物に手を出してきた。  そんな私が、ホラー同好会を作ったのも、当然と言えば、当然なのかもしれない。 「今日は大変だったなぁ……」  そうだ、ただでさえ喋るのが苦手な私の所に、学年でも有名な人が、いっせいに二人も来るなんて……  それに、まさか明宮くんが…… ちゃんと喋れてたかなぁ…… せっかく明宮くんとお話しできるいい機会だったのに!  女の子としての魅力を一切持たない私にとって、今日はまさに絶好のチャンスだった。 どうして魔法使いさんは、そういう所まで魔法をかけてくれなかったのだろう。 けちだなぁ。  けちといったら、神様もけちだよね、けちな魔法使いを派遣するわ、よりにもよって明宮くんの口から彼女の名前を聞かされるわ…… 「花宮……京子……」  つぶやく私の声は、風に吹かれて消えてしまったことだろう。 すっかり暗くなってしまった空。雲の合間から見える月は、よそよそしくて、惹かれるほどに美しかった。
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