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――『きっと君なら、大丈夫さ!夢を諦めちゃいけないよ』
「……いけない、寝ちゃってたか……」
規則的に揺れる車内、どうやら十分ほど寝てしまっていたようだ。昨晩は、眠りにつくことが出来なかった。三次さんの報道が、頭の中をまだ、ぐるぐるとまわっている。
優しかった三次さん。
きっと三次さんがいなかったら、私は絵描きとして成功することはなかったと思う。
成功どころか、きっと一生絵を描くことは無かったに違いない。
昔から絵を描くのが好きだった私は、絵を描くに連れて評価を得て、天才少女とまで呼ばれていた。
大好きな絵の評価をもらえた私は順風満帆の人生を送っていた。
美大に入り。一年生の時点で私は、個展などでもあまりある評価を貰い、プロの絵描きとして、人生を賭けようとしていた。
しかし、大学二年生の冬、突然不幸が訪れた。火事で両親を亡くしたのだ。私が、個展の作品も仕上げにかかっていた時期だった。
あまりの絶望に、絵をかくのをやめ、ひきこもりの生活を一年間送っていた。
両親が死んでから、通い始めていたチャットで出会ったのが、三次さんだった。
私の話を親身に受け止めてくれて、そして聡してくれた。
『きっと君なら、大丈夫さ!夢を諦めちゃいけないよ』
あまりも大雑把で、人の絶望をあまりにも軽く考えている様な言葉だったが、なぜか私はその一言に励まされた。
自分の重すぎる気持ちは、案外、軽い言葉を求めていたのかもしれない。
きっと、お父さんもお母さんも、私が絵を描く方が喜んでくれる筈だと、そう考えるようになってからは、もう一度大学にも通い直し。
去年大学を卒業してからは、プロの作家として順風満帆の日々を送っている。
また、大切な人を亡くすなんて……
絶望さえしたものの、今、高校生の男の子が、命の危機だと言うではないか。
「三次さんは私を救ってくれた……今度は私が誰かを救う番よね……!」
電車のアナウンスが、目標の駅への到着を報告した。
時刻は午後一時五十五分。
きっと大丈夫。和くんもいるんだし。きっと私たちなら大丈夫!
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