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僕の中で祖父はもうとうの昔に死んでいた。
正確に言えば、祖父が医者から酒とタバコの一切を禁じられた数年前のあの時から、祖父はかなり速いスピードでもって死んでいった。
祖父は第三者の手によって「生かされて」いた。
僕は悔しかったのだ。
楽しみを奪われて、それでも死ぬ事を許されずに生かされている祖父が。
そして、それに抗う意志も力も干からびる程に老いてしまった祖父が。
僕は、祖父が日に日に口数を減らしていく事が寂しかった。
いつでも暴言を吐いていたあの恐ろしい祖父が車椅子の上で、何時間も黙ったまま垂れ流しのテレビ番組を見続けている事がとても悲しかった。
暖房であたためられた部屋の中、そのままの姿勢で眠ってしまっている祖父は死体に見えた。
咽(むせ)るような汗の匂いや首筋に垂れた涎を僕は心から憎んでいた。
眠っている祖父に静かに近づき、口をそっと押さえれば、むしろ祖父は生き返るのかもしれないとすら思っていた。
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