半年ぶりの地元

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僕は見慣れた駅前の風景に視線を滑らせ、半年前と変わらずそこにあった汚れたビルや、居酒屋の看板やパチンコ屋のネオンや、手入れされていないケヤキの木や泥人形のように不細工な女子高生を眺め、そして憎んだ。 懐かしさと痛みと諦めと不快感とある種のエロスが複雑に絡み合ったような、不思議な憎しみ。 心臓に圧迫感があり、少し息苦しくなった。 悪くない、と僕は思いながらミントタブレットを口に放り込み、奥歯で噛み砕いた。 飲み込むと、僕は大きく深呼吸をし、さらに視線を移動させる。 地面に張り付いた吐瀉物のシミを、シャッターの閉められた寂れた寿司屋を、水がチロチロと流れ出ている緑色のゴムホースを、自転車のカゴに無数に貼り付けられたデリヘルのチラシを、オーバーサイズのシャツを着てたむろするブラジル人を、ドレスの上にコーチジャケットをはおった年増の売春婦を眺めては、やはり憎んだ。
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