祖父が死ぬらしい

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三角形のスタッズで縁取られた重厚な一人掛ソファ、組立式のシンプルなデスク、その上に投げ置かれた薄い文庫本数冊と、赤ワインが二センチほど残ったまん丸のグラス。 ほら、と僕は思う。 それらにはまるで色がない。 やはりこの部屋の中には不思議な空気が充満しているのだ。 自分以外の何かが、ひっそりと、息を殺して、物体から彩度を奪う。 数日前、友人の部屋にあった雑誌から無断で引きちぎってきた1ページが、画鋲で壁に貼り付けてあるのに気付いた。 あれは確か、極彩色で描かれた蓮の絵だった、と僕は思い出した。 しかしその絵画の表面にはやはり色がない。僕は諦めて、あるいは歪んだ安心を感じて、手元のライターに視線を落とした。
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