祖父が死ぬらしい

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受信のボタンを押すと、ズズズという携帯電話独特のノイズが聞こえて、少し不自然な程の長い沈黙を挟んで父親の声が聞こえた。 今大丈夫か、と父親は言った。 大丈夫じゃない、と僕が答えたらこの人は死んでしまうかもしれない、というような頼りなげな言い方だった。 父親の声がそんな風に聞こえたのは生まれて初めてだったから、僕は思わず、大丈夫だよ、と答えた。 実際には、全身を覆っている冷たい汗と、後頭部が重く沈んでいくような鈍い頭痛と、吐き気と空腹感が絶妙に混ざり合った液体的な違和感のせいで僕は全く大丈夫ではなかった。 それでも僕は大丈夫だと答えた。 大丈夫でなくても大丈夫だと言わなくてはならない事があるのだと、そんな当然の事を、かなり驚くべき事として思い出した。
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