435人が本棚に入れています
本棚に追加
好きな人いるの?
何でかな。訊けないよ。別に何とも思ってないのにさ。声が出ないよ。
何あたし怖がってんの。別にさっしーに好きな人がいたってさ、あたしには関係ないでしょ。
「も、もえのちゃん...?」
口を開けないままのあたしに、さっしーは声を掛ける。またちょっと吃りながら。
だからあたしは、さっしーを見ずに黒板を見ながらちっさく口を開く。
「さっしーってさ、」
「は、はい」
「好きな人とかいんの?」
いつの間にか授業が終わってたこの賑やかな教室には、あたし達の会話は聞こえるはずがなくて。はずがなくて。
「みんなー萌乃が指原に好きな人が何かって聞いてるぞー!」
「え?萌乃って指原好きなの?」
「え、ビックニュースじゃん!」
騒ぎ回るこの3人はクラスのお調子者の3人で。この3人に知られたら、すごい噂が立つってよく聞いていた。
あたしはちっちゃくため息を吐く。何であたしが指原なんかと...。
いちお誤解を解きたくて、慌ててその話題を掻き消す。
「ち、ちがうの。別に好きとかじゃなくて」
「じゃあ何なんですかー?」
ハァ、もうめんどくさい。あたしは一言吐き捨てた。もう勝手にすればいい。別に噂が広まったってあたし達の間には何も生まれないんだから...。
クラス中に歓喜の声が上がる。
さっしーは何故か嬉しそうで、りっちゃんはやっぱり悲しそうで。
あたしはどうすればいいか分からない。
さっしーのこと好きだけど。りっちゃんのことも大切で。
あたしにとっては、2人とも大切だから。そんな2人が結ばれるのは、嬉しいことだと思う。
だから、あたしは、2人の幸せを…
願うべきなのに。
最初のコメントを投稿しよう!