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青い空、白い入道雲。
夏休み真っ盛り、七月も残すところ今日一日となった日曜日の朝。
俺はとある駅のホームで人待ちをしていた。
服選び、所要時間十五分。
ヘアセット、所要時間三十分。
朝食は十分で平らげた。
いつになく気合いが入ってしまったのは他でもない、あのお方がデートに誘ってくださったからだ。
「やあ、お待たせ。髪型決まってるね」
私服もやっぱり格好良いイケメンは嫌味ったらしく(本人にその気はないだろうが)俺を褒めると、女子であれば一発で惚れてしまいそうな爽やか笑顔(本人にその気はないだろうが)を咲かせた。
「おはよ。それでさ、マジで行くの?動物園」
いきなり、「動物園に行こう」なんてメールを昨日送りつけて来やがったこのイケメンの隣を歩くには、それなりの覚悟と準備がいる。
俺が今朝犠牲にした四十五分はそのためのものだ。
ただでさえ、冴えない男子街道一直線な俺が、こんなイケメンと二人っきりで動物園なんか歩いてみろ。
「何でお前みたいのが隣にいるんだよ釣り合わねぇよ邪魔だ消えろ」みたいなことを道行く女性達の心の声で言われるに違いない。
ま、だからって髪型をいくら凝ったところでこいつと釣り合うわけなんてないんだけどさ。
「もちろん、行くよ。ホワイトタイガーを見るために」
ちょっとおしゃれなデジタルカメラを首から下げ、優は目を輝かせて言い放った。
「え、目的それだけなの?」
「他に見たいのもたくさんあるけど、やっぱりホワイトタイガーでしょ。日本に二十三頭しかいないっていうし」
そう語る坂井優は、この二週間ほぼ毎日遊びまくったどんな坂井優よりも、イキイキとしていた。
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