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夏休みに入ったその日から、俺達は毎日のように連絡を取り合ったり、学校の図書室で共に宿題を片付けたりするような仲になっていた。
それというのも、顔と性格と運動神経は良いが勉強の方はいまいちだというイケメンの泣き言に、この苗代学園一の努力の秀才こと一瀬心が思わず優越感に浸ってしまったことが始まりだった。
毎日毎日図書室でイケメンと面を合わせての勉強会をなんとなく行っている内に、なんとなく宿題は一週間で片付き、なんとなく俺と苗代一のイケメンは仲良くなり、そしてなんとなくいつも一緒にいるようになり、なんとなく今に至るわけだ。
そんなこんなで、意図せずして俺の目標である坂井優をじっくりと観察できたわけだが、俺がこいつから学べたことがあるかと問われれば俺は首を傾げざるを得ない。
「どうしたの、心?」
「優、俺にはわからないんだ」
「ん、何が?」
「えっと……俺に足りないもの?」
「積極性、とかじゃないかな?いつもメールするの俺からだし。たまには心からも誘ってよ」
「お前は俺の彼女か」
と突っ込んではみたものの、確かに的を射た答えではある気がする。
俺はいつも、待ち構えているだけな気はする。死に物狂いでした努力だって、結局は備えでしかない。
積極性積極性。
例えば、フランちゃんと初めて会った日、彼女の手を取って走り出したこととか。
あれは突発的に自分でも訳わからずにやっただけだが、ああいう今までの俺ではしそうもないことを意識的にしていかなくては、現状を変えることなんてできやしない。
「そうか、積極性か」
「ま、それは俺にも言えることだけどね」
俺の唐突な質問にも動じなかった優はそう呟きながら、目を細めて遠くを見つめた。
まるでその先にいる誰かを見つめるように。
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