ミルクティは恋の味

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少し離れ、中庭に面した渡り廊下まで来た辺りで、彼は足を止めた。 「あ、ありがとう。なんか、変なとこ見られちゃったね。気、遣わせちゃった?」 「いやー、なんか今日は初対面の女の子の手を取って駆け出したい気分だったんだ。悪いね、付き合わして」 彼の言うことは、やっぱり適当だ。 でも、彼の笑顔には、確かな優しさがあった。 「奇遇だね。ちょうど私も、見知らぬ男の子に手を引かれて駆け出したい気分だったんだ」 私も彼の適当に合わせて返すと、彼は少し驚いた顔をし、 「そっか。そりゃ奇遇だ。奇遇を通り越して奇跡だね」 と言って笑いながら、掴みっぱなしだった私の手首を放した。 「んじゃ、奇跡の出会いに乾杯ってことで。カフェオレの弁償も兼ねまして」 そう言って、空いた私の右手に缶が手渡された。 女の子に人気のミルクティ。 どうやら、彼が先に買っていたものらしい。 「え、悪いよそんな」 私、ミルクティはあんまり好きじゃないし。 「大丈夫、美味いから!俺のオススメだから!じゃ!」 微妙に心読まれてるんじゃないかというくらい適当な返しをすると、彼は足早にその場を立ち去ろうとする。 「あ、待って!」  呼び止めると、一瞬何かを思い出したような表情をしてから、彼の方から口を開いた。 「一年五組、一瀬心。『こころ』って書いて『シン』」 「あ、私は」 「知ってるよ、有名人さん」 心くんと別れた後、予鈴のチャイムに急かされるように、私はミルクティを流し込んだ。 この時のミルクティは、前に飲んだ時よりもずっと、甘く感じた。
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