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辺りにはうっそうと木々が覆い繁り、僅かな隙間から漏れる月明かりが濡れた下生えを艶やかに輝かせている。
植物の息づかいと虫達の鳴き声が夜の森にこだまする。
夏も間近に迫った季節に、森は生命に溢れていた。
そんな自然の深い呼吸を乱す不粋な者達が、この森には迷い込んでいた。
少年は自らの血と、誰のものであるかも判らない血で濡れた銀色の甲冑をガシャガシャと鳴らし、大声を上げながら走っている。
「メイー!! 返事してくれ!! メイーー!!」
少年の体力は既に底をつきかけていた。
左腕に負った傷から血が流れ過ぎたのである。
少年は木の根元にへたりこむと、荒い息をしながら額の汗を拭った。
べとり、と血と汗に濡れた栗色の髪が額に張り付く。
朦朧とする意識にあらがうように、体力を振り絞り叫んだ。
「メイーー!! マールーー!!」
いくら叫んでも返事はなく、夜の森には虫の鳴き声だけが響いている。
まとわりつくような湿度と気温が容赦なく少年の体力を奪ってゆく。
少年は無意識のうちに胸元に手をやり、失われた物を探す。
「クソ! まさか罠だったとは……みんな無事でいてくれよ……」
意識が遠退いて行くのを感じながら目をつぶろうとした時だった。
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