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真っ青な空には一片の雲もなく、優しい風がまだ若い草花を静かに揺らしている。
村の周りには草原が広がり、森の向こうには、頂に白い雪の積もった山が見える。
草原に寝転がっている少年は、少しクセのある栗色の髪をうざったそうに掻き上げた。
掻き上げられた髪と同じ色の瞳がその下からのぞく。
取り立てて美少年という顔つきではないが、どこか人懐っこく、芯の通った性格を思わせる。
少年は傍らに置いてあった剣に手を伸ばすと、鞘からするりと抜いて天へと突き立てた。
頂を少し過ぎた太陽の光が反射されて銀色の輝きを放っている。
まだ若い体力の溢れるこの少年にとって、この村は平和過ぎた。
剣の腕は村一番であり、他の大人達もこの少年の腕を認めている。
だが、それだけの事である。
人口が百人にも満たない酪農や畑仕事が主な村で、剣の腕が一番だからといってなんだというのだ。
少年には夢があった。
いつか騎士として仕え、国中に名を馳せる事である。
その為の努力は惜しんだ事はなく、幼なじみのマールと毎日の訓練に暇がなかった。
しかし、父親はただの細工職人である。
とても騎士との繋がりなど持てる環境ではなかった。
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