たっくんとぼく。

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「たっくん。ぼく来月から高校一年生」  世界が茜色に染まる、早春の夕暮れ。  山の稜線も、砂利道に延びるふたつの影法師も徐々に輪郭を失っていく穏やかな時。  土の甘い匂いが、鼻をくすぐった。 「うん、知ってる」  おめでとう、と隣を歩くたっくんが言う。  ぼくが幼い頃――カブトムシや蝉なんかを鼻水垂らしながら追いかけていた頃だ――大好きな両親は死んでしまった。  交通事故だった。  確か、駅前のデパートで買った小学校の制服を受け取りに行く途中だったと思う。  『行ってきます』と言って出かけたお父さんとお母さんは、まだ帰ってきていない。  これからも、帰ってこない。  それからは、3つ違いの兄であるたっくんと二人暮らしだ。古びた木造二階建て。4人で住んでいた頃は狭い家だったが、今はやけに広く感じる。  すごく、広い。
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