たっくんとぼく。

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 買い物袋を持つ右腕を軽く小突く。 「嘘付け。忘れてたやろ」 「いいや、嘘やない。お前のことなら何でも分かるわ」 「なんや」 「お前の初恋相手の名前かて、たっくんは覚えとるぞ」 「ほな、言うてみい」  たっくんはうーんと唸ると、満面の笑みを浮かべ言った。 「さちこや」  誰や、それ。 「あ、違ごたわ。これ、たっくんの初恋相手や」  再び右腕を小突く。  すると、たっくんは痛いと言って、笑った。  たっくんはひどく物覚えが悪い。ぼくの誕生日はおろか、自分がいつ生まれて、何年生きていたかもあやふやだ。以前「何でたっくんは物覚え悪いん」と訊いたことがあった。すると、えらく楽しそうに「だって、今が楽しけりゃええんやもん。せやから、小難しいこと覚えんでもいい」と言った。  自分の生年月日は小難しくはないと思ったりもしたが、なるほど、たっくんらしい回答だった。  ぼくが、うんうんと頷いていると、今度はたっくんが尋ねた。 「ところで、お前の誕生日って、いつなん?」  おい。  詰まるところ、たっくんはバカで適当なのだ。  ぼくらは仲のいい兄弟だった。  おかずは半分こするし、コミュニケーションの一環として二人で風呂にも入る(さすがに、これは卒業したい)。  でも、時々、本当に時々どうでもいいことでケンカをしたりもする。  それは、たっくんの足の臭さだったり、トイレの長時間独占だったり、リモコンの取り合いだったり。  今日は三番目だ。
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