蟻の巣穴

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そして高3の夏。 あれから何度か彼女に会う機会があった。その度に僕達は、桜が散る中、暑い日差しが照りつける中、紅葉が色づく中、雪が積もる中、地面に文字を書いて話し合っていた。 夏と言えば、1番彼女との思い出が多い季節だ。 高2の夏は2人で打ち上げ花火を見た。 ただ綺麗だった‥音なんて聞こえない。ただ彼女の隣で花火を見る‥それで良かった。それだけで幸せだった。 2人は持参したノートで会話した。 ‘綺麗だね?’ 彼女がそう聞くと ‘綺麗だね’ そう答えた。 この繰り返し、あの日からなんら変わらない。 でも確かな事は1つ、僕は彼女と出会った事で僕自身が変われた気がしたのだ。 その事を思い出すと涙が零れる。 もう彼女はいない‥7日前から‥ 僕がその事を知ったのは高校最後の夏休みの事だった。 彼女の家を訪ね、ノートに ‘彼女は?’ と書いた。 すると彼女の母親は口に手を覆い、涙を浮かべ、首を横に振った。 僕は走り出した。 走って、泣いて、ついにたどり着いたのは、あの蟻の巣穴があった場所だった。 彼女と初めて会った場所‥全てが新鮮で温かいその場所‥。 しかし、いくら探してもあの蟻の巣穴は見つからなかった。 僕は大切なものを2つ失った。
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