空子

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仕事から戻った母は、父を見るなり狂ったように泣き叫んだ。 そして、父の惨殺死体は、警察に囲まれ、どこかに連れて行かれ未解決事件となった。 それから暫くして起こった母の惨殺事件も未解決だ。 空子は、私が憎む相手を喰う。 私がその願いを空子に言うでもないのに、空子は、その相手を喰い尽くした。 何度その光景を見ても、私は美しいとしか思わなかった。 だから、ただ空子は喰い尽くせば良かったのだ。 私が憎む人間を、何も思わずに。 空子が18歳の時、私が憎む人間を空子は愛してしまった。 涙を流しながら、彼を喰う。 彼だけは、食べたくないの。 お姉ちゃん、助けて。 彼だけは殺したくないの。 そんなに愛しているなら、何故喰い殺すの? 金色の瞳から涙を流し、空子は愛する男の腕を鋭い爪の手で引き千切りそれを食べている。 食べてしまうの。 だって、お姉ちゃんが彼を憎んでいるから。 食べたくないのに、食べたくないのに! 彼はどんな味なの? 愛する人はどんな味? 私の投げた問いに、空子は答えなかった。 人間の味を覚えた化け物は、その味を求めてしまうのだろう。 愛している男は、今までの人間とは違う味なのだろう。 それから、空子は涙を流しながら人を喰うようになった。 何故なのか分からないが、空子は私の憎しみを喰い生きている。 私が憎しみを無くさない限り、空子は死ねない。 化け物なのだから、人間の感情を、人を愛する気持ちを持たなければ楽なのに。 ――私のように。 本当の化け物は、私なのかもしれない。 ―END―
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