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その夜はいつもよりも暑かった。
私はなるべく人混みを避けながら、駅のホームをゆっくりと進む。
駅に来たのは人生で初めてだった。人々がゴミのようにあふれる中、それでも秩序が保たれているのは不思議で興味深い。
ゴォーー!!!!
不意に爆音がホームに轟く。
噂に聞いた電車が入ってきたのだ。風に押され、近くのサラリーマンにぶつかる。謝ろうとしたが彼は気にもかけない様子だった。
電車のドアが開き、保たれていた秩序が一瞬崩れる。出たい者と入りたい者がごちゃ混ぜになり、やがてスムーズに動き出す。
そこから逃げようとしたが、巨人のような壁のような大人たちの圧力に適うはずもない。
私は抵抗も出来ないまま車内へと押し込まれた。行き先も何も分からなかった。
車内はまさにぎゅうぎゅう詰め。
私はドア近くの手すりに捕まり、潰されそうになるのを必死に避けてた。
サラリーマンが多いだろうか。
近くの男からは酒の臭いがした。
やがてスピードが遅くなり、ドアが開く。ダッと人が流れたが今回は耐えた。車内は冷房が効いているし、特に降りる目的もない。
降りた人に比べ乗る人は少ない。車内は先ほどよりグッと人が減った。私は人の間を縫って進み、人の観察を始める。私が見ているのに気付いた者は少し嫌そうな顔をした。他人をジッと見つめるのは良くないことなのかと感じた。
その内またドアが開き、人が出て入る。閉まって電車は走り出し、また止まってドアが開く。
いつの間にか車内には数人になっていた。キラキラした町の光が綺麗だった窓の外も、その光を失い始める。
随分遠くに来てしまったなぁ…。
そんな感傷に浸っていた、まさにその時だった。
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