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ある秋の終わりの算数の授業前に教科書を出したりして準備をしていると、タイシくんと呼ぶ声がした。
顔を上げて横を向くと、隣の席のマミちゃんが両手を合わせてお願い、と言ってきた。
「どうしたの」
と聞くと、わたし教科書忘れちゃったから申し訳ないけれど一緒に見せてくれませんか、と言ってきた。
タイシが
「いいよ」
と答えると、マミちゃんは机を寄せてきて、ありがとーと言ってニッコリと笑った。
不覚にもタイシはその笑顔をかわいいと思ってしまい、思わずにへらと笑い返したところを、たまたまなぜかタイシのクラスに来ていたハナに見られた。
ハナはタイシを一瞬見ただけで、用があったらしいクラスの女子のところでしばらくしゃべっていて、何もなかったように授業が始まる前に帰っていったので、
ああ、にへらと笑ってたのを見られなかったのかな、良かったなとタイシはホッとした。
もちろん、ハナはタイシが他の女子ににへらと笑いかけたところで、全然動じたりしない。
そもそも、ハナとタイシは時々手を繋いだりするけれど付き合ったりしているわけでもないのだ。
などと考えながら、隣の席のマミちゃんに教科書を見せていたら、授業の内容が全然頭に入ってこなかった。
タイシはこっそりため息をつく。
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