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「夕緋、………何か考えてる?」 薄暗い部屋の中 私の目の前には、ミキがいる。 長く伸びた髪の毛は、ミキが好きと言ったから。 綺麗に塗ったネイルは、ミキが好きと言ったから。 「…………ずっと…昔の、こと」 そう言えばミキは私をギュッと抱きしめた。 今は簡単にミキの体に収まってしまう。 もう昔みたいに私が押したってビクともしない程に筋肉もついた。 全然昔とは違う。 違うのに。 「………大丈夫、夕緋、見えるから」 耳元で響くミキの声は重低音で落ち着く。 ゆっくり目を閉じる。 真っ暗な中、ミキが私から体を離した。 目を開けなくても、ミキが私を見てるって分かるよ。 「夕緋、目、開けて?」 その言葉に素直に従って目を開ける。 ミキと目があった。 上から見下ろしてるミキの頬に手をあてる 「…映ってる、ミキの目に私が」 そう呟けばミキは当たり前だろ、と笑った。 「…」 あの日、ミキは落ちてきた木の枝が右目に傷をつけ視力をなくした。 …ほんの少しだけ残ったらしいけど、無いに等しい。 それを聞いた時、罪悪感に苛まれた。 ミキは右目がなくても左目で夕緋を見れる。って笑ったけど私は涙が止まらなかった。 返せないものを奪ってしまった、と。 …だから、 「夕緋、…好きだよ」 「…ん、私も」 私にあげられるもの全部あげるって決めたんだ。
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