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………チリーン…。
今時と思いながら鞄に括り付けておいた御守りは、湿り気を帯びた砂埃で少々汚れてしまっていた。
出来るだけ荒っぽくない仕草で砂埃を払い、まじまじと御守りを見ると紐が鋭利な刃物で切られた様な………少なくとも自然に切れた様子では無さそうだ。
勿論、刃物なんて周辺に無い。
ぞくり…と、背筋が寒くなったので御守りを握り締め、雨が降ろうが槍が降ろうが構うかと元の方角に向き直し、走り出そうとすると妙なモノが瞳にうつる。
………チリーン…。
本来なら、学校の門が見える筈なのに目の前には大きな朱い鳥居が有った。
鳥居の奥には色鮮やかな、とても色鮮やかな紫陽花が咲き乱れていた。
鳥居の中は雨水がパラパラと降り、花弁を艶やかに濡らしている。
「……おや。まぁ、どうした事か。小さな鈴の音が聞こえたから子猫か何かと思いきや………人の子を招き入れてしまった様だ。」
紫陽花を掻き分けながら、今時珍しい蛇の目傘をさした男性が此方に近寄ってきた。
傘の杖を掴む手は白く、黒い蛇の目傘から見える長い髪も白い。着ている服も時代錯誤と言うべきか、中国服とアオザイを混ぜた様な……それもそれで染み1つ無く白い為、雨に濡れたら溶け消えてしまいそうな雰囲気が男には有った。
「少年よ、この鳥居は潜るなよ。これは境だ。人と人ではない者の……」
不意に突風が真っ正面から吹き荒み、顔に雨水がつく。
「……ぅわッ!」
思わず顔を背けたが、唇に雨水が付いた。
それと同時に口腔内に例えようの無い上品な甘味が広がる。
「………あれ、まぁ。少年よ、今日は厄の日かい?」
視線だけを戻すと、蛇の目傘は天高く飛んでいた。
白い男は、総てが白いのかと思いきや、瞳だけは鮮血よりも清らかな、柘榴石を太陽に透けさせた時の様な澄み切った紅の色をしていた。
「少年よ。…困ったなぁ。本当に困った。今日は夏至の日だ。夏至に此方のモノを口に含むとな………それが雨水であれ、人には毒の紫陽花であれ……此方世に来てしまう。………困ったなぁ。なぁ、少年?」
瞳とは逆に、粘膜質で血肉が有るのを嫌でも分かる赤い、赤い唇は夜空で笑う三日月その物の形をしていた。
「………俗に言う、神隠しだ。」
男の口端が更に歪につり上がった。
壱→→→
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